【院長ブログ6】めまいのはなし
良性発作性頭位めまい症
今年(2025年)の夏はことのほか猛暑で、外来には熱中症がらみのめまいの方がたくさんいらっしゃいました。しかし、なかでも一番多いのは、良性発作性頭位めまい症と呼ばれるめまいです。
◎こんなめまいです
頭を動かしたりしたときに、突然起こる回転性めまいです。数分間で治まりますが、自分や周囲がぐるぐるまわるので、気持ちが悪くなったり、恐怖をおぼえることもあります。
◎頭をある方向に動かすと起こります
朝起きようと思って体を起こしたり、横になったりしたときに起こります。右を下にしたり、左を下にしたり、あおむけになったりなど、人によりめまいを起こす方向が異なることも特徴です。耳鳴りや難聴を伴うことはほとんどありません。
◎内耳のなかの浮遊物が主な原因です
耳には音を聴くといった働きのほかに、体のバランスを保つといった働きがあります。耳の鼓膜より奥には、内耳といった構造物があります。内耳には、リンパ液で満たされた三半規管と耳石器があり、頭の動きによりリンパ液に流れが起き、それが脳に伝わってからだのバランスを保つようにできています。
このリンパの流れが乱れると起こるのが、良性発作性頭位めまい症です。リンパの流れを乱す原因となるのが、耳石です。これは耳石器から何らかの原因で剥がれ落ちた小さなクプラといわれる石で、浮遊耳石とも呼ばれています。
浮遊耳石は頭を動かすたびに、リンパのなかを動くので、これが正常の流れを乱してめまいを起こします。はがれた耳石はながく三半規管に残って、数日間めまいを起こし続けます。
めまいの診察
めまいが起こった際には、まずかかりつけ医に相談してください。かかりつけ医の先生の判断で、耳鼻科や脳外科に紹介されます。かかりつけ医が無い方は、まずは耳鼻科を選んでください。ほとんどが良性発作性頭位めまい症ですが、10%近くは脳の病気によるめまいもあります。こちらは良性ではなく、危険な病気であることがあります。耳鼻科の先生が危険なめまいかどうか判断して脳外科に紹介してくれると思います。問診では、めまいが起きた時間、その時の動作、めまい以外の症状(耳の聞こえ、耳鳴りなど)、めまいの性状(ぐるぐるまわる、ふわふわする、など)をお聞きします。
診察では、目をつぶって立っていられるか、同じところで足踏みができるか、自分の指で鼻のあたまをしっかり触ることができるか、などを調べます。また、特殊な機械で眼振(目を動かすとき左右にゆれる)を調べることもあります。
良性発作性頭位めまい症の治療法と対処法
◎運動療法
良性発作性頭位めまい症では、めまいの起きる特定の姿勢をくり返しているうちに、次第に発作が起きなくなってくるという〝慣れ〟が生じることが知られています。この特徴を利用して、積極的にめまいが起きる姿勢をくり返して〝慣れ〟の状態へと導く体操があります。かなりつらい方法ですが、めまいを怖がって寝込んでいる人ほど、症状は長引きます。
また、頭を上手に動かすことで、半規管に入り込んだ浮遊耳石を取り出す運動療法で治療することもあります(エプリー法)。ただし、この運動療法は、めまいを起こしている耳が左右どちらの耳か、どの三半規管かで頭の動かし方が変わります。ネット上でエプリー法と検索すれば、方法を教えてくれる動画もありますが、間違った方法を行うと、かえって症状が悪化します。そのため、必ず耳鼻咽喉科医やめまい専門医を受診し、医師に運動療法を行ってもらったほうがよいでしょう。
◎薬物療法(抗めまい薬・循環改善薬・抗不安薬)
良性発作性頭位めまい症の発作は1分ほどで治まり、吐き気などの症状も比較的軽いので、発作そのものに対する治療薬は用いません。内耳の機能を改善する目的で抗めまい薬や循環改善薬を、めまいに対する恐怖感が強い時には抗不安薬を処方することがあります。
◎怖がりすぎないことが大切です
良性発作性頭位めまい症は一番多いめまいですが、一番治りやすいめまいでもあります。にもかかわらず、めまいに対する恐怖感がストレスとなって、めまいが起きないように自分の生活を自分で制限してしまう人が少なくありません。
良性発作性頭位めまい症は、適切な指導により〝慣れ〟ることができれば症状が軽快する病気です。めまいへの恐怖で生活に支障をきたしてしまう前に、耳鼻咽喉科や脳神経外科を受診するようにしてください。

